星組公演『銀二貫』を配信で視聴しました。
今月は珍しく観劇の予定がなく、自宅でゆっくり配信を楽しむことに。
稀惺かずとさんの初主演ということで楽しみにしていましたが、観終わって一番心に残ったのは、「とても温かい作品だった」ということです。
悪人が登場せず、人と人との思いやりが丁寧に描かれる物語。そして、その世界観を支えるキャストの皆さんの自然なお芝居に、何度も笑い、何度も胸が熱くなりました。
今回は、稀惺かずとさんの初主演の感想を中心に、印象に残ったキャストや『銀二貫』という作品の魅力についてお話ししたいと思います。
『銀二貫』あらすじ(※物語前半まで)
物語の主人公・松吉は、もともとは武士の子どもでした。
父を仇討ちで亡くし、自らも命を落としかけたところを、寒天問屋「井川屋」の主人・和助に銀二貫と引き換えに助けられます。その銀二貫は、本来なら天満天神宮への寄進のために使うはずだった大切なお金でした。
こうして松吉は井川屋の丁稚となり、商人として新たな人生を歩み始めます。
仕事を通じて出入りする料理屋「真帆家」では、主人や娘・真帆との温かな交流の中で、寒天が人々を笑顔にする食べ物へと生まれ変わることを知ります。そして、真帆家の主人が編み出した「琥珀寒」の美味しさに心を奪われます。
しかし、大坂を襲った大火によって真帆家は焼失。松吉は真帆親子とも離れ離れになってしまいます。
それから9年後──。
かつての琥珀寒が復活したという噂を耳にした松吉。しかし、その味は『似て非なるもの』だという評判でした。「これは琥珀寒とは違う。こんなのにお金払えるか。」と店に食ってかかる一人の女性と出会います。
その女性こそ、大火で生き別れとなった真帆でした。
ここから、止まっていた二人の時間が再び動き始めます。
悪人がいないからこそ心に残る、温かい人情劇
『銀二貫』を観終わって最初に思ったのは、「温かい作品だった」ということです。
もちろん、大火によって大切な人を失うなど、悲しい出来事も描かれます。しかし、この作品にはいわゆる「悪役」と呼べる人物はほとんど登場しません。
だからこそ、人と人との思いやりや支え合いがより印象的に描かれ、観ているこちらの心まで温かくなりました。
そして、ここぞと言う局面で銀二貫が松吉のみならず、誰かを助けるために使われ、未来が繋がっていく。
笑える場面では思わず笑い、胸が熱くなる場面では自然と涙がこぼれる。そんな人情劇だからこそ、観終わったあとも穏やかな余韻が残る作品だったと思います。
稀惺かずとの初主演は、誠実な松吉にぴったりだった
今回がバウホール初主演となる稀惺かずとさん。
初主演と聞くと、どうしても緊張や力みが出るのではないかと思っていましたが、そのような心配は全く不要でした。
松吉という役を自然体で演じており、初主演とは思えないほど落ち着いたお芝居が印象的でした。
特に和物との相性は抜群です。
立ち居振る舞いや所作が美しく、実直で誠実な松吉という人物がよく似合っていました。
星組といえば、ショーで見せる華やかさやキラキラしたイメージが強くあります。もちろん、稀惺さんもショーではその魅力を存分に発揮されています。
しかし『銀二貫』では、その華やかさを前面に出すのではなく、作品に寄り添いながら松吉という一人の青年を丁寧に演じていました。
これまで地道に実力を積み重ねてきた稀惺さんだからこそ、その誠実さが松吉という役に自然と重なり、観ていて安心感のある主演だったように思います。
温かい物語を支えたキャストの皆さん
ここからは、それぞれのキャストさんの感想を書いていきたいと思います。
真帆を演じた乙華菜乃さん
真帆を演じたなのちゃん(乙華菜乃さん)も、とても印象に残りました。
前回の『恋する天動説』では、頭の回転が速く、弁も立つ快活な役柄で、コメディエンヌとしての魅力を存分に発揮されていました。
一方、今回演じた真帆は、大火によって人生を大きく変えられた女性。
感情を大きく表に出す役ではありませんが、その静かな佇まいや表情から、真帆が歩んできた年月や心の痛みが伝わってきました。
稀惺かずとさん演じる松吉との空気感もとても自然で、派手さはないものの、お互いを思いやる二人の関係性に心が温かくなりました。
前回とは全く異なる役柄でしたが、新たな一面を見ることができ、とても嬉しかったです。
オレキザキの善次郎に、まさか泣かされるとは……
善次郎を演じたオレキザキ(輝咲玲央さん)も、とても印象に残りました。
前回の『恋する天動説』では、ポンコツな悪役ぶりに笑いすぎて涙が出るほどコミカルなお芝居で楽しませていただきました。
それだけに、今回はまさか逆の意味で涙を流すことになるとは思ってもいませんでした。
普段は松吉に小言を言ってばかりの善次郎ですが、9年ぶりに真帆が井川屋に現れた場面で、静かに「よくご無事で……」と声をかけます。
善次郎自身も幼い頃に火事で奉公先を失い、寒天場を経て井川屋へやって来た人物です。
だからこそ、その一言には真帆のその後の苦労を自分自身のことのように思う優しさが込められており、思わず涙がこぼれました。
また、天神さんへの寄進のためにコツコツ貯めた銀二貫を松吉のために使ってしまったことに、最初は辛く当たるのですが、松吉の実直な働きぶりや他者への誠実な接し方に、徐々に心を開き、認めていく心の変化も丁寧に演じていました。
嫌味な人物に見えて、心根は優しい善次郎をユーモラスに演じていたのも印象的です。
笑わせるお芝居だけでなく、人の心を静かに動かすお芝居もできる。その新たな一面を見ることができたのも、今回の大きな収穫でした。
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前回は悪役なのにポンコツ過ぎて笑いすぎて涙出たけど、今回はまともな方で涙出たー

二幕目以降のオレキザキ、温かみがあったよね。
汝鳥伶さんが作り上げた井川屋の温かさ
和助を演じた汝鳥伶さんは、まさに井川屋の大黒柱でした。
銀二貫と引き換えに松吉の命を救い、商人として育て上げる和助。
その厳しさの中にも深い愛情があり、「こんな主人のもとで働きたい」と思わせる温かさがありました。
また、善次郎との掛け合いも絶妙です。
普段は真面目で小言の多い善次郎と、どこか飄々とした和助。そのやり取りは夫婦漫才のようにも見えて、思わず笑ってしまう場面も多く、井川屋の日常をより温かく感じさせてくれました。
だからこそ、井川屋というお店が本当の家族のように見えたのだと思います。
碧海さりおさんの二役も印象的
碧海さりおさんことちゃりおは二役を演じられていましたが、それぞれがしっかり別の人物として存在していました。
冒頭では、松吉こと鶴乃輔の父・彦坂数馬を演じ、建部玄武との仇討ちで命を落とします。
後半では、鶴乃輔(のちの松吉)が寒天場で修行していた頃に良くしてくれた半兵衛を演じ、面倒見の良い兄貴分を好演。
同じ方が演じていることを意識させない自然な演じ分けで、作品の世界観に溶け込んでいたのが印象的です。
派手に目立つ役どころではありませんでしたが、物語を支える大切な存在として、作品に深みを与えていました。
主演、ヒロインはもちろん、ベテランから若手まで、それぞれが役を丁寧に生きていたからこそ、『銀二貫』という温かい世界が完成したのだと感じます。
まとめ
『銀二貫』は、大切な人を失う悲しみや人生の苦難を描きながらも、それ以上に人と人との温かいつながりを感じられる作品でした。
稀惺かずとさんの初主演も、力みのない誠実なお芝居で作品の世界観によく合っており、改めて和物との相性の良さを感じました。
また、乙華菜乃さん、オレキザキこと輝咲玲央さん、汝鳥伶さん、碧海さりおさんをはじめ、出演者の皆さんがそれぞれの役を丁寧に演じていたからこそ、井川屋という温かい居場所が生まれていたのだと思います。
今月は珍しく観劇のない月でしたが、自宅で配信を通して、このような心温まる作品に出会えたことを嬉しく思いました。
観終わったあとに、「温かい作品だったな」と自然に思える――そんな素敵な人情劇でした。
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ギラギラしてない星組もいい感じだったー

星組の新たな一面を見た気がする。
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2日連続、星組鑑賞をしたせいか、今の星組の多様さを改めて知ることとなりました。

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